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「俊………」
隣に立っている母が消え入りそうな声で呟いたかと思うと、繋いでいた手から力が抜け、大きく崩れ落ちた。
思いがけない素早さで、刑事が駆け寄り母を抱きとめてくれた。
「お母さんは、気を失ってしまったようだ。
キミ、確認できるかい?」
ぐったり動かない母を刑事に預けて、私は、一歩、一歩、遺体に近付いた。
以前の面影を探すのは困難だった。
それでも、首筋に二つ並んだ黒子を見つけた。
指先で、そっと触れてみる。肌は乾いて冷たかった。
思わず、空いている左手が私の首に触れていた。
私も全く同じ処に黒子があるのだ。
よく覚えている。
(これ………)
見覚えのあるチェックのシャツから覗いた手首に、光る文字盤が見えた。
そっと、袖を捲ると、去年の誕生日に私がプレゼントした腕時計があった。
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