confirmation 確証

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『隣にいるの…スグル…じゃない……』 ゴボゴボとくぐもった葉子の声が蘇った。 不明瞭だったけど、あの時、ちゃんと聞こえていた。 最後の声。 「貴方は兄さんじゃない」 真っ直ぐに彼の目を見て、私は告げた。 「蒼井俊は、死んだの」 私は、彼を拒絶しなければならない。 何故なら、私は兄さんを愛しているから。 彼を認めるわけにはいかない。 目の前のこの男は俊兄さんじゃ、ない。 その時、ドアを蹴破って澤井刑事が入ってきた。 「爽さんを離せ」 異様な状態の室内を物ともせず、澤井は真っ直ぐ此方へ向かってきた。 目の前の男の襟首を掴み、私から引き剥がした。 「邪魔するなっ」 みるみる内に、兄だった男の形相が変わっていく。 見知らぬ顔。 とても整っているけれど、冷たい美貌。 炯々と燃える瞳。 それは、人間ではない、何か別のモノ。 遅れて入ってきた配島が見て取って、澤井に何か渡した。 それは黒い十字架だった。 澤井は十字架を翳し、厳かに言葉を紡いだ。 目の前の男は苦しみだし、顔が、幾重にも変化した。 兄の顔、須々木の顔、警察で見せられた写真の顔、幾つもの知らない顔。 中には女の顔もあった。 沢山の顔をもつ男は、体の内から炎を吹き出し初めた。 断末魔の叫びがあがる。 低く高く太く細く、幾重にも重なって。 この世のものとは思えない声が響く。 男は轟々(ごうごう)と、松明のように燃え盛り、やがて動かなくなった。
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