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配島はもう一度、横目でちらりと遺体を見た。
どうみても真面な人間の仕業とは思えない。
『夜中に出歩いちゃあ、いけないよ。
何故、って?
…………血を一滴残らず盗まれるからさ』
子供の頃に祖母が話して聞かせてくれた寝物語が頭に浮かんだ。
夜な夜な墓場から抜け出して生血を啜る夜の住人。
「吸血鬼って、いると思います?」
恐る恐る尋ねると、澤井は一瞬動きを止めた。
固まった侭、瞳だけグルリと動かし配島を凝視した。
「……い、るわけない、ですよね……」
配島の語尾は聞き取れないほど小さい。
「お前、刑事だろが?
刑事がそんな事言ってて、どーするんだよ!」
澤井はスナップを効かせて配島の後頭部を叩いた。
配島はバランスを崩してよろめき、キッチリ整えられた彼の長い前髪が崩れて額に落ちた。
「痛ってえ」
髪を掻き上げながら顔を顰める配島を見て、澤井は不満げに大きく鼻を鳴らした。
「無駄に前髪長えんだよ。切っちまえ」
かく言う澤井は、いかにも刑事らしく短く刈り込んでいる。
だが髪の色は、といえば、白と見まごうばかりの白金だった。
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