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────── 雨。
朝からずっと、降り続ける雨。
きっと今日は、止むことはないだろう。
窓越しから、虚ろな目で曇天の空を見上げながら、女性はふと頭の中で呟く。
散らかされた部屋の明かりも点けずに、一人寂しく窓の外を見ていた。
その彼女の姿をよく見ると、何とも痛々しいものだった。
本来ならば美しいはずの黒髪は、手入れもされずに酷く傷んだ状態のまま伸びきっており、白い素肌には化粧の綺麗な装飾ではなく、ただ、生々しい痣や傷跡が刻まれている。
「……あなたはきれいね…」
空から降る滴に小さく呟き、生きている実感をなくしたような濁りきった瞳で、ただそれを眺めていた。
しばらくすると、男性の罵声が部屋の外から聞こえてきた。彼女は、声の主がいると思われる方へと顔を向ける。
よく聞くと、ずっと誰かの名前を叫んでいる。その名前が聞こえると、彼女は近くの棚の上に置いてあった何かを片手に持ち、部屋を出た。
…どうやら男性が呼んでいる人物は彼女のことらしく、先程から怒鳴り散らしている人物は、おそらく彼女の父親なのだろう。
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