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「…あっ」
彼女がそんな思考を巡らせながら立ち上がった後、不意に彼が一つ声を上げたかと思えば、微笑んだ素振りで彼女を見た。
「そういや名前言うてへんかったな。俺は永白漱一(ナガシラソウイチ)。アンタは?」
暗がりで表情などはよく判別出来なかったが、何の躊躇いも無く名前を告げた彼に、彼女は驚きの色を隠しきれず、ついに言葉を洩らした。
「…何でそんな…」
「?」
「何でそんな…あっさりと自分を教えるの。何でこんなとこにいる私を助けようとするの。何でそんなことが出来るの?」
「………」
「…怖く、ないの…?」
唐突に、されど明確に言葉を返したつもりが、途中から怖くなってきて、怯えたように最後を言い終われば、彼女は少し後退りした。同時に、彼の手を振り払おうと力を入れる。
だがそれよりも先に、彼女に差していた傘を彼が手放し、落下すると同時に彼女の両手を合わせるように掴んでグッと握り締めた。
「ひっ…」
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