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すると直後、今までのことがフラッシュバックされ、一瞬にして恐怖に顔を歪めれば、彼女は悲鳴に近い声を洩らす。
「や…っ!」
そして全力で彼を振り切って逃げようとした。
その瞬間だった。
「思わへん。」
彼の僅かに開いた口からこぼれた一言。その声は先程より優しく、されど中には何かしらの意思の強さが感じられた。
「…怖いなんて思わへん。むしろ、怖いなんて思いたない。あんさんが一人でこんなとこにおったから話しかけたんや。それの何を怖がらなあかんの?」
言葉を出す度に、徐々に彼の手から伝わる力が緩んでいく。それと同じように力が抜けた彼女の両手を包み込むように握り直せば、スッと顔を上げた。
はっきりとは見えなかったものの、彼女は確かに、彼の優しい視線を感じた。
「…今までつらかったやろ…?」
この言葉に、彼の彼女に対する全ての感情が詰まっていたような気がした。
それと同時に、彼女は何かの糸が切れたかのようにポロポロと涙を流し出した。
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