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きっとギルベルトは全員で逃げ切れないことに焦燥感を感じているのだろうとアーサーは思う。
いや、これは確信に近かった。
大切に育ててきたルートヴィッヒだから、彼だけでもここから逃がしたいという気持ちがあるのだろう。
そして同じようにアルフレッドを大切に育ててきたアーサーのことも十分過ぎるほど分かっているから同じように逃がしたいと思っている。
顎に右手を当てて視線をさ迷わせ、足を踏み鳴らすギルベルト。
そしてそれを心配そうに見るルートヴィッヒ。
程なくしてギルベルトが出した結論は簡潔なものだった。
「…け、」
「え?」
「俺様にここを任せて先に行け、ヴェスト!!アルフレッド!!」
アーサーに添えていたアルフレッドの腕を剥ぎ取り、狼狽するアルフレッドとルートヴィッヒを威嚇するかのように睨み付けた。
暫くは理解出来ないまま立ち尽くすルートヴィッヒだったが、はっと我に返りそれに負けじと反論する。
「何を言っているんだ兄さん!!残るんだったら俺が残るッ!!」
だから兄さんが先に行けばいい、と半ば泣きそうになりながらルートヴィッヒが叫ぶ。
気付いたのだろう。
ここで兄を置いていけば兄の助かる見込みの少ないことを。
それほどにアーサーの傷は深かったし、追っ手の数も多かった。
「ヴェスト…」
必死になる弟に思わず肯定をしてしまいそうになったところでギルベルトは大きくかぶりを振った。
そして全てを振り払うかのように大声で叫んだ。
「いいから早く行け!!ここで何人も死んだら意味がねェだろーがよッ!!」
う、と言葉を詰まらせるルートヴィッヒを見てギルベルトはその瞳を更に鋭く睨み付けた。
彼らが硬直している時。
ぼそ、と小さな声でアルフレッドが反論した。
「…じゃあ俺が残るよ」
そして意を決したようにギルベルトの方を向く。
しかしギルベルトはそのばっさりと意見を切り捨てる。
「いいから先に行け!!」
「でもアーサーが…」
「俺なら平気だ、アル」
すがるような視線を向けてきたアルフレッドにアーサーは先程と同じように柔らかく微笑んだ。
「でも……でも…ッ!!」
混乱しているアルフレッドは視線をあちこちに動かして何とか理解しようとしているが、彼が理解するまで待つ時間はない。
「もうすぐ追っ手が追い付く!!だから早く行け!!」
強い調子でギルベルトがそう言うと、アルフレッドは何度か瞬きをしてアーサーを見た。
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