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「お兄ちゃん…」
私は兄を呼んでいた。
小さな声で。
「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
ひたすらに、呪文のように。
私には歳が9歳離れた兄がいた。
でもその兄は3年前、私が11歳の時に死んだ。
自殺だった。
兄は大きな病気を持っていて、20歳まで生きられないと言われた。
だから兄は兄のすきなことをしていた。
そんなある日、彼女にフラれたんだ。
その日は兄の20歳の誕生日だった。
何も知らない私と両親は20歳まで生きれたという喜びに浸っていた。
兄はその日、事故に遭った。
ひき逃げだった。
自転車から横転し、右足を複雑骨折。
将来的に立つことは難しいと言われた。
兄はその時記憶喪失になっていた。
20年間の記憶全てを無くした。
私の存在も、両親もわからなくなっていた。
兄は、その1週間後に記憶があいまいなまま右足が完治しないまま病気で死んだ。
私は兄がだいすきだった。
だから私も逝けばいい。
記憶を無くした今、
私の中で悔やむことは何ひとつない。
ゆっくりと階段をのぼる。
「…お兄ちゃん…お兄ちゃん…」
ブラコンだって言われても構わない。
お兄ちゃん…
今から逝くから。
待っててね。
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