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見慣れているせいと、いつも汚い身なりをしていたせいで気づかなかった。やっと気づいた。わしの身辺にこれほどの美人は姉だけじゃということを。 わしはぼーっと姉を見つめていたが、姉はくすっと笑って、 「行ってくるから、じゃあね」 とだけ残して、バタンとドアの向こうへ足音とともに遠ざかって行く。 わしは年齢のせいか、かなりドキドキした。 ああいうものを間近で見ると、どうにもこうにも行かなくなる。いつも願っていた平凡な人生にも終わりが来たような気がした。恋愛がどういうものなのかも知り、自分も盲目の世界へ入って行く感じがした。 姉には幸福になってほしいと願ってきてから幾年も経つが、今日はどこにも行ってほしくないと思ってしまう。 しかし、これは十数年前流行った「禁断の恋」になるが、今時は近親相姦よりボーイズラブの時代じゃ、流行りではないが、姉への思いは捨て切れなかった。 わしはその場を取り繕うかのように吐いて捨てる。「今だけじゃ…」と。 日中も今朝のドキドキの余韻で、ぼけ~っとして過ごす。どうしたのじゃろう?こんなにふわふわとした気分は…そう思いながら、授業始まりとともに机の上に倒れてしまった。ごいんとものすごい音がしたが、その後、意識がなくなった。 気づけば、保健室のベッドで横たわっていた。時計を見ると、授業開始からおおよそ15分経っていた。 気持ちの変動が身体にまで影響するとは情けないものよ…。 意識が戻ったので、ここからは去った方が良さそうじゃ。いつもの「あれ」に捕まっては一たまりもないからの…。 よろめく足元でベッドからそろそろと起き上がって、戸口の方まで行く。保健室というのは、夏場はひんやりとした雰囲気の漂う場所で部屋も冷房がしてあって歩いていても涼しい。 留まりたい一方で、ここにはいたくないといった思いがわしの足を急がせた。よし、もう一歩…。 どん! 目の前が揺らぐ、左側へ軌道を逸らされる。身長の低いわしはその衝突物にさえられなかった。 わしは「すみません」と謝る。 「あ~ら、すみませんなんて、おっしゃらなくて良いのよ?井上叶谷君」 …出た! 小泉万柚香。この学校で一、二を争う、美人女保健医である… が、わしとこのように親しく接してくるのにはそれなりに因縁みたいなもので繋がっているから…
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