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それ故わしは避けたい。
方向転換して窓の方へ走ろうとすると、衿元を捕まれ、未然に阻止されてしまった。
「叶君、今日も可愛いわね。先生やっぱ好きだなぁ」
とか言われて…こっちは堪ったものじゃない!その手をどけろと言わんばかりに、後ろを振り返る。
この女、わしから見たら、どこが綺麗なのかさっぱり解釈できんが、生徒の間でも教師の間でも女性陣の中で絶世の美女だと好感を持たれている。お嬢様系?そんな感じの喋り方をして、マニキュアなんかもばっちり塗ってある。
職業柄抑えろとか校長から言われないのが不思議じゃが、校長もこの者の色香に負けてしまってるのかもしれん。
それはさて置き、こういう奴に捕まった日には気持ちが萎える。
わしが「お前と話す気はない」と言うと、急速に衿元にかかる圧力が強くなって、ものすごい勢いで奴の袂へ寄せられる。
わしはこれ以上何も起きてほしくないと願う。
ぽふっと大きめの胸の中へ連れ込まれ、ウェーブのかかった長い髪がわしの頬をくすぐった。
「久しぶりに先生とお茶しない?」
にっこりといたずらっぽく微笑んでそう言う。わしはふと腹具合を探る。
ぐ~っと空腹が声を上げている。わしは「お茶くらいならええぞ」と言って、小泉から離れる。
「ありがとう~、先生嬉しいぞ」
と言って、保健室の奥へと入って行った。
わしはそこらにあった椅子に軽く腰掛けた。ちょうど四時限目だし、腹が空いても良かろう。
しばらく待っていると、小泉が茶と菓子を持って現れた。
「熱いから気をつけてね、おっとっと」
と言いながら、手渡されたのは紅茶だった。菓子は煎餅かビスケットだった。わしは空腹から思わず「うまそ~」と言って喜んでそれをほおばる。
もしゃもしゃ食べていると、小泉が
「お姉ちゃんは元気かしら?」
そうだ。こいつがわしに絡んでくる理由。姉の存在があるからである。「元気か?」と聞くのは、あくまでも社交辞令にすぎない。わしは「わからん」と冷たく突き放すように言う。姉は誰のせいで苦しんだと思っているのじゃ?わしはそんな質問はなからお断りじゃ。
「お姉ちゃんとわたし、どっちが綺麗かで、当時学校中が騒然となったのよ…今でも忘れられない。状況対応で努力を惜しまない頑張り屋さん。無事のライバルだわ…」
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