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教室に着くと、終礼の鐘がなっていて、みな起立しているところだった。わしは「すみません」と断りを入れ、自分の席に戻ると、挨拶を待ってくれていた、日直が礼と言う。 午後からはきちんと出席できれば良いと思いながら、わしも頭を垂れて参加できなかった授業の終了だけ参加する。 昼食時間が始まる。ある者たちは学食へ、ある者たちは友達の席まで移動を開始する。ぎぃ、ごっとんと椅子の重たい音が鳴りやむまで、数分。 わしもいつも友だちと雑談しながら楽しく食事している。教室の昼の空気は、みな日常の課題を忘れて和気あいあいとしているから好きだ。 「こっちじゃ」尾張を手招きして呼ぶ。尾張はレディーファーストめいたことをしながら、なかなかこっちへ来れない。三人くらいの女子が尾張の前を通過しなければならなかったし、来るまで時間がかかるので、少々考え事をしようか… とは言っても、考えるのは、今日好きになった姉のことだが…… はて姉は今朝何時に起床し、わしの昼食やら朝飯を作ったのであろうか?三時間は要にかかるよな…姉上のエプロン姿…? 「おーい、何ぼーっとしてんだ、よっ」 いきなり目の前に男の顔が現れた驚きで「わっ」と声をあげる。尾張じゃ。女集団の中を通り越してやっとのことで辿り着いたらしい。手には弁当の入った紙袋がある。 わしは鼻をしゅんと言わせて、「別にぼーっとしてなどおらぬよ」と、好きな者がいるとは思わせないような返事を返す。 尾張はガサガサと持っていた紙袋を開け始める。前にも言ったが、大柄なので手先を使ってそのような仕種をされるとなんとなく愛嬌がある。何やら必死に中身を出そうとしているが、手がごつ過ぎて薄い弁当箱を掴むのが大変らしい。「お前、必死だな。手伝おうか?」とわしは声をかける。 尾張は 「大丈夫」 と言って、しばらく袋と格闘していたが、うまく取り出してにっと笑ってくる。わしも「達成感があるものな、弁当もさぞ美味しかろう」と笑って言う。 しかし、一口食べようとしたところで、尾張はわしの弁当の中を見てきて 「お前の唐揚げと俺の鰺フライ交換してちょ?」 と、言ってくる。わしはいつもは良い返事をしていたが、今日は異なっていて「だめじゃ」と断る。そんなもんだから、尾張もしゅんとしたギャグ顔を作り 「いけないですか?」 と聞いてくるが、こく
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