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こくと頷いて「わしのだからの。わしのものじゃ!」と強めに言ってしまう。 言ったあと、今日のわしはどうかしてしまったと思う。心の中で尾張は悪くないぞという言葉が沸き上がってくる。わしは「べ、別にお前のことを親友じゃないとか思ったから言ったわけではないぞ。気分じゃ」と自分には言い訳、尾張には申し訳ない気持ちでそう言って水筒のお茶をふたにつぐ。 尾張は何かあるなという顔で 「なんだ?好きな奴でもできたのか?」 と聞いてくる。 わしはびっくりしたが「そういうわけではない」と否定した。しかし、尾張は怪しいと思うらしく 「叶がそういうときは嘘が多いんだよな…好きな奴いるんだろ!?」 と聞いてくる。わしは逃げれんな…と思い、「…いるが…」と答える。 するといきなり尾張の目がきらりと光ったかと思うと、がしっと肩を抱かれ引き寄せられる。わしは手に持っていたお茶をこぼしそうになり、ひやひやじゃったが、やつはそんなことお構いなしに次の質問をしてくる。 「誰?一組の鮎川さんか?それとも三組の越智さんか?あの二人は人気あるからなぁ、お前もとうとうファンになったか?」 と、わしはその二名ではなかったが、まさか実の姉に恋しているなど知ったらこいつ爆笑してくるに決まっている。しかもそんなことが実際にあっても、祝福されない恋ではないことくらい解っていた。わしは視線を横の方へやりながら「どっちも違う…」と小さな声でぼそっと返答する。 尾張は見当がつかなくなったという顔をして 「じゃあ、誰だよ?」 と一番問題の思い人の名前を聞き出そうとする。 わしはここで返答に困ってはおかしいだろうと思い、ちょうど目に入った女子、川上智子の名を即答で答える。 川上はクラスの中ではごく一般的な女子生徒である。顔も性格も普通程度でこれと言った魅力も感じないような女だった。 しかし、わしは尾張に本当のことを知られるのは親友といえども、かなり抵抗があったので、適当に穴埋め。 「川上さん?ふんわりした感じの人が好きなんだな、お前。良かったぁ、やっと年頃の男らしくなったじゃないか。俺も安心したぜ」 尾張は満面の笑みでわしの肩をぽんぽんと叩いてくる。 わしはこれと言って川上の魅力を知らないので、尾張の口からふんわりした感じと聞いて、そういえば、川上はそんな柔らかい感じ言えるなと内心でああそうかと
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