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始まりはいつも突然だ。
よく記憶喪失なんかの冗談で、ここはどこ? 私は誰?
って言うのあるじゃん、あんな感じ。
どうして俺は美しい満月を見上げながら、夜の荒野に横になっているのだろう。
月に手を伸ばしても意味がないのはわかっている。
でも伸ばさずにはいられない気分だった。
細くて色白の手、月光に透けてしまいそうだ。
そのまま伸びた前髪を掴む。
紅色で肩に掛かるか微妙な長さ。
「まぁ、どうでもいいか」
そんなこと、本当にどうでもいい。
今は〝何故モンスターに囲まれているのか〟というのが問題だ。
「うざったいな、人が考え事をしてるのに……邪魔するなんて、さいってー!」
見ればゴブリンと言えばいいのか、一メートルほどの背丈、赤黒い小鬼が十体。
「俺を喰いたいなら……せめて十倍は呼んでこいよ!」
空間を裂くように現れた大剣。
それは無骨で、本当に柄と刃だけといったなまくらだ。
「あ~、新しくてかっちょいい剣欲しい~」
奇声をあげながら馬鹿みたいに走ってくるゴブリンを二つに分かつ。
血とかすっごい掛かってる、超テンション下がるな。
生臭ぇし。
テキトーに剣を振り回したけど、もう全部いなくなったみたいだ。
……シャワー浴びたい、町に帰るか。
血だらけになったオレンジ色の服を見る。
…………俺、女じゃん。
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