生い立ち

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埼玉の駅を降りて少し歩くと あるはずだった、母が働いていた店は 今は居酒屋になっていた。 母はしばらくその場に立ち尽くした後 「ちょっと…休もうね」 と斜め向かいのマックに入った。 私にハンバーガーを食べさせながら すぐ外の大通りの車の往来を見つめる母の横顔に 私は罪悪感を覚えた。 私は今まで父の暴力にただ堪えるだけの母に じれったさを感じていた。 いつもなんで言いなりなのって気持ちがあった。 だから母の背中を後押しするつもりで 今日気持ちを訴えた訳だったが 身よりのない母が 私を連れて家をでるというこの現実は 私が想像しているよりずっと大変だったということに今更気づいた。 「お母さん、あたしがわがまま言ったせいで…ごめんね…」 泣きじゃくる私に母は首を大きく横に振って 「助けてくれてありがとう」 と優しく微笑んだ。 もうすぐ日がかわろうとしていた。
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