生い立ち

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私が初めて父の暴力現場を目撃したのは 小学1年生の時。 その日は熱帯夜で 喉が渇いて起きてしまった私が耳にしたのは 父の罵声だった。 「あの子がだらしないのはお前の躾がちゃんとできてないからだ!」 あの子が私だというのは 幼い私でもすぐにわかった。 恐る恐る襖を少し開け 隣の部屋を覗くと 母を何度も踏み付ける父の姿と 床にはいつくばって泣きながらごめんなさいを繰り返す母の姿が 視界に飛び込んできた。 普段からあまり仲のいい夫婦という感じではなく 会話も少なかったが それでも連休には家族旅行に行ったりもしていたので この時までうちは普通の家庭だと思い込んでいた。 私はその光景があまりに恐ろしくて 喉が渇いたのも忘れて布団にもぐりこんだ。 父の罵声と母をいたぶる鈍い音に 耳を押さえて震えながら 私のせいで母があんなめにあっているのだと自分を責めて 翌日まぶたが腫れるほど泣いた。
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