生い立ち

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今でこそよく騒がれるDVだがその当時 まだDVなんて言葉はあまり知られてなくて 保護施設や相談窓口があることを知っている人は一体どれくらいいただろう? 少なくとも私の母にそんな知識はなかったに違いない。 幼い頃に両親と祖父母を交通事故で亡くした母は親戚の家で育った。 居候で肩身のせまい思いをした母は高校を卒業してすぐ夜の仕事に就き一人暮らしを始めた。 そんな母にはこんな時にも身を寄せる場所はなかったのだ。 「埼玉へ行こうか」 駅へ向かって歩きながら母は優しく笑って言った。 「埼玉?埼玉になにかあるの?」 何か期待するように聞いた。 「昔ね、お母さんがお父さんと出会う前に働いてた店があるの。まだあるかはわからないけどそこなら住み込みで入れるから」 「へぇ~」 今の学校にも友達はいて転校するのはさみしかったが初めての土地にちょっとワクワクした。
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