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「………っ」
寝る度に見る夢だった。
途中で起きてしまうことが多いのに、今日はそういうわけにはいかなかったようで、うなされ続ける。
ルルーシュの左手の方で、何かが裂ける音がした。
…真新しい、シーツ。
裂けたシーツと同じように白い指は、いつもより数倍青白く、まるで這うようで。
何かから逃げるようでもあった。
――スザク?
お前、顔色が―
逃げろ!ルルーシュッ!
え ?
「………っ…」
顔面蒼白といった様子で走って来たスザクの背後には、黒い影と。
黒い…影と
見覚えがあるような、ないような…。
中年男性の、顔。
いや、…首。
「―――っ!」
弾かれたように、一瞬。
階段から降ちたように揺れたルルーシュは目を開けた。
数回まばたきをして、夢だと自分に言い聞かせた。いや、実際、夢なのはルルーシュにも分かっている。
激しく動悸する己の心臓を握り潰すようにシャツの上から拳を押しつけた。
荒い息遣いが少し収まった頃、先ほど見た夢を思い出して、顔が歪んだ。
幼い親友の必死な顔。
突き落とされた、と言っても3.4段の階段だが。
銃声に、
静寂―――。
「――忘れてしまえば笑えるのにな…、」
普段の気丈なルルーシュからは想像もつかない程に弱く掠れる声が、広くも冷たさを感じる部屋に響く。
…忘れてしまうことなんて、
出来るはずもなく。
自分の一生分の笑顔と、あそこであった事件の重みを、比べるまでもなく。
忘れることを心から願っているわけでも、なかった。
その事件で、…自分なんかより。
心を病んでしまった者が居ることは、分かっていたから。
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