何かを失うことがない限り

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 初め、カエデは体育の時間にミズヤを見ていた。 人とあまり話さないミズヤという男。 授業の中では抜群の運動神経を見せるも、どこか弱々しい影があるように思われた。 その弱々しさにカエデは惹かれたのかもしれない、とカエデは自分で思った。  声を掛けたのはカエデからだった。 それはミズヤが学食で昼食を一人で食べていた時。 「あの、私、カエデっていうんですけど……私と結構講義被ってますよね。良かったら一緒に食べませんか?」 目が合った。 光も、何も通さないような瞳に思えた。 「別にいいよ」 そのミズヤの返事にカエデは喜んだ。 この人とは仲良くなりたい。 そう思えていたから。 学食の食堂は真っ白な壁、天井。 賑やかな学生達。 その中で二人はぎこちなく、だけど確実に初めてのコミュニケーションをとった。
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