何かを失うことがない限り

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「どうかな……。一般職かも。研究まで進学するかは迷ってる。カエデは?」 聞き返されて困った。 自分の答えを用意してなかった。 「私も、まだ分かんない。でも、多分進学、かな」 「進学」 「うん。だって大抵みんな進学だし……」 「そうだね」 ミズヤはコップの水に口をつけた。 その動作は単純なのに何故かカエデの目を奪った。 それがあまりに滑らかだったから。  それから二人はよく話すようになった。 カエデには他にも友達はいたが、ミズヤは孤独に見えた。 そんなミズヤが放っておけなかったのだ。 「サークルとか入らないの?ほら、スポーツとか得意でしょ?」 ある時訊いたことがあった。 「僕は人に見られないところで精一杯運動してるから、いいんだ」 ミズヤはそう言った。 どうやら意図が伝わらなかったらしい。 要は友人関係の話だ。 「サークル入って知り合いとか作らないのってこと。いつも一人じゃん」 カエデは少し批判的に言ってみた。
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