第1話 ロックンロールな出会い

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「それ、入部届け?」 男の子のひとさし指が、私の右手に向けられる。 そこには教室からずっと握っていた、くしゃくしゃの入部届けがあった。 「は、はい。入部、あの、しようと思って……」 緊張のせいでいつもみたいに上手く話せない。つっかえつっかえで、時々変に裏返ってしまう。 そんな私の様子に、男の子はまた微笑んで、学ランの胸ポケットから小さく折りたたまれた紙を優雅な動作で取り出し、広げて、こっちに見せた。 「良かった、俺も一緒なんだ」 私が昨日の夜睨めっこしたのと同じ入部届けの名前の欄には、「関根はるか」と、流れるような字で書かれてあった。 関根はるか。 関根、はるかくん。 男の子ではるかは珍しい。 その上、ひらがなだからかより一層柔らかい感じがして、女の子の名前みたいだ。 でも、凄く似合っている。 しかも、同じ1年生だ。 「キミの名前は?」 頭の中で勝手に関根くんの名前に感動していた私は、入部届けを見せてくれた関根君に対して、何かしらの反応をすることを忘れてしまっていた。 名前を見せてくれたんだから、せめてこっちも名乗らないとだめだよね。うん。 「あ、わた、私は、スミレ……みず、水橋スミレです!」 しまった。思いっきりどもった。 「へえ、水橋さんって言うんだ。何組?」 どもってしまって赤くなっている私を気にすることもなく、関根くんはにこやかに会話を続けていく。 私の心臓はさっきからどきどきしっぱなしで、このままもつのか心配で仕方ない。 でも、答えないわけにはいかないから。 せっかく同じ部活にはいるんだから、1人でも多く友達になりたいし。 「さ、3組です!」 「あ、数的には隣だね。俺4組なんだ」 「えっ、そ、そうなんですか?」 「あははっ!水橋さんってば、何でさっきから敬語なのさ」 「えぁっ!そ、その、えっと、何となく……っていうか」 愉快そうに笑う関根くんにビクつきながら、誰だって、芸能人とお話しするときは敬語になるでしょうに、と私は心の中で呟いた。 別に関根くんは芸能人じゃないけど、何と言うか、格上の人すぎるから、ついつい敬語が出てしまう。 でも、同い年の人に敬語って、感じ悪いかも……。 「あの、関根くんは、どうして軽音部に入ろうと思ったの?」
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