少女はカエる ~プロローグ~

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 街の雑踏を掻き消すかのように高らかに車のクラクションが鳴り響く。割と近くから上がった気もするが、特に気にはしない。そんな事に思考を使っている余裕なんて、今の俺にはない。 「馬鹿やろう! とっととどきやがれ!!」  かと思っていたら今度は罵声が響いた。しかもすぐ真後ろで。いい加減にしてほしい。そんな気持ちも相まって後ろを振り返ってみると、そこには俺の何倍もある巨大なトラックを筆頭に大小様々な車が列を為していた。  どうやらいつの間にか車道に乗り出していたらしい。このまま歩き続けてやろうかとも思ったが、あまりにうるさいので仕方なく歩道に避けてやることにする。 「死にてぇんなら他で死にやがれ、クソガキ!」  よっぽど苛立っていたのか、それとも単に急いでいただけなのか、先頭車両のトラックの運転手は一言そう言って低いエンジン音とともに去って行った。 (死にたいか……そうなのかもしれないな)  考えてみて、自嘲気味に笑う。そうだ、俺なんか死ねばいい。そうすればこんなにも悩むことはないんだ。秀樹の事で、もう悩むことは……。  幼馴染で親友だった河内秀樹(かわうちひでき)が死んだのは一年前。学校の校外学習で隣町にある端恵山(みずえやま)の中腹に位置する離結湖(りけつこ)に訪れた時のことだった。  水が苦手だった秀樹は、誤って水に落ちてしまい、異変に気づいた俺たちが駆けつけたときには、もう秀樹の命は失われていた。  確かに一人で勝手に行動し、勝手に落ちた秀樹も悪いだろう。だが、泳げない事を知っていてそれでもあいつを放ったらかしにしていた俺が悪くないと言えばそれは嘘だ。俺がもし、あいつの傍にいてやれば少なくともあいつは……。  やめよう。もし、なんて考えたって秀樹は帰ってきやしないんだ。  暗くなった気分を吹き飛ばそうと両頬を思い切り叩く。何か、気分転換になるような事でもあればいいんだが。そう思い、辺りを見渡してみると、少し前方に行った所に黒山の人だかりを見つけた。遠目でよくはわからないが、何か騒いでいるように見える。  何かイベントでもやっているのだろうか。興味をそそられ近づいてみる。近づくにつれ、徐々に人だかりの内容が明らかになってきた。大体は野次馬。その中心でマイクや大きなカメラを持った、いわゆる記者と呼ばれる人たちが、さらに誰かを囲んでいるようだ。
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