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ヒラリ、と蝶が信号機から離れ、ふわふわと私のすぐ目前に舞う。
手を伸ばせば届きそうな距離…
ふいにそれに触れたくなって私は、もうすこしだけ身を乗り出し手を伸ばした。
指先が蝶に触れそうになる。
後、数ミリ位の距離で…
蝶はまるで誘う様に、フワフワ私の指の周りを楽しそうに舞った。
「 のどかっ!!! 」
梨花の声がしたと思えば、ぐいと腕を強い力で捕まれそのまま後ろに引き倒された。
「っあた…!!」
派手に尻餅をつくと同時に、電車がガーッと激しい速度で目前を走り抜けていく。
梨花がしゃがみ込み、私の肩を抱いた。
「っもう…ボーっとしすぎぃっそんな身乗り出したら危ないじゃんか…っ」
「あ……」
蝶が…と言おうとして視線を戻したけど、その姿はどこにもなかった。
あ…あれ?
派手にこけたせいでマヌケな格好になったままの私は、ぼんやりと遮断機が上がった線路を眺めたまま何も言えなかった。
梨花は心配そうに大丈夫?と私のスカートについた砂を払ってくれた。
あれは、幻…?
でも、確かにはっきり…
私は蝶がいたであろう場所から視線を離せないまま、いこうと梨花に手をひかれるがままにその場を後にした。
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