幕間

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 何か、何だろう。その人を見たとき、息が詰まりそうになった。ううん、詰まってた。たぶん呼吸してなかったはず。とりあえず体は物凄い震えてた。  私の傷をえぐられたみたいで。怖かった。スイカを狙った矢だって、あの人が見えたから軌道をずらしたわけじゃない。あの人が目に飛び込んできた瞬間、怖くて手元が狂っただけ。  あれから二年経って、とっくに忘れたつもりだったのに。遠目からシルエットを見ただけで、あの人だとわかってしまった。それで、お婆ちゃんに呼ばれるままに逃げ出しちゃった。  もう二度と、弱い所を見せないって決めたのに。駄目だな、私。  あー。もう何もかも全部忘れたい。忘れらんない。嫌だ。泣きたい。でも泣きたくない。もうこれ以上、そんな弱い姿、見せられない。  忘れたと思いこませても、無理だった。それどころかはっきり覚えてた。だってあの人を見たとき、自然に口からあの人の名前がついてきたから。  半日過ぎても、私の気は晴れなかった。  ただ何にも知らない優希くんの声だけが、蝉の声みたいに聞こえてた。                .
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