12月24日 お昼時

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彼女は幽霊だ。 名前はアル。 厄介なことに生前の記憶がないらしく、ハルが名付けた。 そんなこともあってハルには特別思い入れがあるらしく、いつでも憑きまとっている。 「暇ってお前、目の前のテレビで大好きな昼メロやってるだろ」 《わざわざテレビ見なくても、リアルなのが目の前でやってるわよ》 「じゃあ、もっと昼メロらしくしましょうか。 アルちゃん、この人について教えてください」 そう言って、彩夏はどこからともなく名刺を取り出した。 黒いワンピースの幽霊はスッと彩夏の背後まで飛んでいくと、ハルには内容が見えない角度で彩夏が持つ名刺を、くしゅくしゅになった袖から覗く搾りたてのミルクのような乳白色の手で指差した。 《どうしたの、これ》 「昨日もらったんです。 ハルさんに、ってことでしたから一応預かりましたけど」 『…………捨てていいんじゃない?』 「勝手なこと言うな。 ほら、姉さん。 ちょうだい」 「なんですか? そんなに欲しいんですか? 女の子…………って年じゃないですけど女性の名刺ですよ? 刺しますよ」 「最後は昼メロっぽいね」 降参、という意味を込めてハルは軽く手を挙げてみせた。 必要なものならアルは言ってくれる。 稀に感情が入って嘘がでてくることもあるが、この辺りに関してハルの彼女への信頼は絶対だった。 「はい、じゃあさよならです」 満足そうな顔で、彩夏は丸めた名刺をごみ箱に放る。 「結局誰なんですか、あれ?」 《前にハルがお守り売ってぼったくった人ね》 「失礼なこと言うな。 俺はいつだって原価すれすれでしか商売してない。 それで、留守の間の出来事はこれで全部かな?」 「学校にお休みの電話かけてあげました。 いたわってください」 「はいはい」 苦笑混じりに返事しながら、ハルは彩夏の口までご飯を運ぶ。 これが彼らの、異常なモノが視えてしまう姉弟と幽霊の日常だった。 幼いころから三人一緒。 結果として一夫多妻にも似た世間とズレた感性が身についてしまったが、こういう人種だからこそできる仕事もあるし悪いことばかりではない。 「それで姉さん、今日の予定は?」 「ハルさんが出かけてる間にお客さんが一人。 それが終わったら晩御飯の用意ですね」 「ああ、そう…………なんで俺出かけんの?」 《自分、マーシャと買い物行くって約束したじゃん》 「…………おぉぅ」
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