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太守峡英も口数は多くないが、この余興を楽しんでいるようだった。
……狂っている。
超水は余興から背を向け、自分の幕舎に戻った。
幕舎には誰もいない。おそらく皆が、勝利の喜びに浸っているのだろう。
超水は兜と槍を手にすると、すばやく幕舎を出た。
余興はまだ続いている。
耳を削ぎ落とされた捕虜に対し、家臣達が剣で切り付けたり鞭打ったりと、やりたい放題だ。
捕虜は絶叫しながら地面を転がって、しばらくすると涙すら赤色に染まった。
「違う。ここは、違う」
超水は誰に聞かせるでもなくつぶやいてから、ゆっくり歩き出す。
柵を抜けた時、超水の胸がスッと軽くなった。
……ああ、父上から離れるということは、こんなにも簡単なことだったのか。
鍛錬という名の責め苦を思い返しながら、超水は前だけを見ていた。
兵の一人が陣を出ていく。周囲にはその程度にしか映らなかった。
――翌日、超水は父親宛に手紙を残して、煉州を去った。
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