1140人が本棚に入れています
本棚に追加
物影から見ていた貧相な青年はため息をついて、背後の女性に向き直る。
「星蓮(せいれん)さん、ここで待っていて下さい」
「で、でも、渠郭翔さんは」
渠郭翔(きょかくしょう)と呼ばれた青年は軽く頷いた。
「僕でも、先生の背中くらいは守れると思います」
後ろから渠郭翔が追い掛けてくるのを確認しつつ、町長である彼――龍角(りゅうかく)は手に力を込めた。
眼前には、山賊の頭領と思わしき人物がいる。
「貴様!」
龍角は、相手に剣を突きつける。獣皮に身を包む頭領は、血走った眼で龍角を威圧した。
「なんだてめぇ」
「町長の龍角だ! お前をこの場で成敗する!」
相手の視線にひるむことなく龍角は答えた。怖くない、と言えば嘘になる。
だが戦わなければならない。「町民を捨てた町長」などという汚名をかぶりたくはない。
「ふん、町長か。この俺様とやろうってか?」
その問いに答えることなく龍角は突きにいった。相手は馬上で身を反らしてかわした後、馬から降りて剣を抜いた。
最初のコメントを投稿しよう!