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太陽は一時間ほど前に昇っていたが、気温が上がる気配は全くなかった。
行軍を続ける兵士の中にも、手に息を吹き掛ける者が多かった。十月半ばのことである。この地方では、十月の頭から冷え込み始めるのだ。
平野を進む軍勢は、紺色の鎧を身につけた者がほとんどだ。
足並みのそろった行進は、彼らがよく訓練されていることを証明している。
歩兵三万四千。
騎兵一万八千。
その騎兵の中に、今日初陣を迎えるはずの青年――超水(ちょうすい)はいた。
本来、この煉州(れんしゅう)という国では、初陣を飾る武者が騎兵に組み込まれることはない。隊列を乱す可能性があるからだ。
彼が騎兵として参加できるのは、父が煉州の兵として、過去に幾度も戦功を立てた名将であるからで、超水自身の能力などは関係ない。
つまるところ、親の七光というわけだ。
それでも彼には武芸においての才があったし、歩兵として戦果を挙げる自信もあった。この戦いで活躍すれば、陰口を叩いていた連中を黙らせることができる。
そのための戦が目の前に迫っている。
ならば、超水の表情には昂ぶりが見られて当然のはずだった。
……だが、彼の目は暗くよどんでいる。
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