第二章――龍角

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   ……父親に比べれば、まだまだだけどな。  男は、そんなことを思っていた超水に、 「申し遅れました。私はこの町の長(おさ)を任されている龍角という者」  丁寧に礼をして名乗る。その自然とした動作を見ているだけで、彼が良家の生まれであることがわかる。 「自分は姓を超、名を水と申す者にござる」  姓と名を分けるのが、煉州流の名乗り方だ。 「超水殿にお礼をしたく存じます。ぜひ我が家へお越しくだされ」  龍角は深々と頭を下げた。  どう見ても、この龍角という男は超水より年上である。  それにも関わらずこれほど下手に出るとは。しかも、これだけへりくだっておきながら、彼の態度には嫌らしさが一切含まれていない。  超水は、そんな龍角という人物に興味を抱いた。  無理を言って立ち去る理由もない。  場合によっては、この町で宿を借りるのもありだろう。  はっきりとした予定のない超水の決断は早かった。 「では、お言葉に甘えて」  人懐こい笑みを浮かべ、龍角は小さくうなずいた。  
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