第一章――煉北会戦

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       †  太守の峡英(きょうえい)は中軍の真ん中で白馬に跨がっていた。  腰には刃の反り返った湾刀が提げられ、無機質な音をたてている。  鎧は一般の将と代わり映えしない質素なものである。兜のみ、反りのある水牛の角が飾られており、独特の雰囲気を漂わせていた。  今年で二十八歳になる峡英は、無表情であった。 「太守、全員そろいましたぞ」  峡英の片腕である老将が報告する。家臣達は、峡英に並ぶように集まって馬を進めた。 「俺が〈皇帝〉に対して反旗を翻し、まもなく一年が経つ。だが皇帝が討伐軍を派遣してこないので、少々不安に思っていたところだ。それがようやく現れてくれて、私はホッとしている。皆もそうであろう、放っておかれてはかえって不気味ではないか?」  ははは、と家臣達が笑った。 「この丘を越えた先には煉北(れんほく)平原が広がっているのは皆も承知しているだろう。我々はそこで官軍を待ち受ける」  峡英の言葉に全員が頭をさげた。超水もそれにならう。  
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