1140人が本棚に入れています
本棚に追加
†
太守の峡英(きょうえい)は中軍の真ん中で白馬に跨がっていた。
腰には刃の反り返った湾刀が提げられ、無機質な音をたてている。
鎧は一般の将と代わり映えしない質素なものである。兜のみ、反りのある水牛の角が飾られており、独特の雰囲気を漂わせていた。
今年で二十八歳になる峡英は、無表情であった。
「太守、全員そろいましたぞ」
峡英の片腕である老将が報告する。家臣達は、峡英に並ぶように集まって馬を進めた。
「俺が〈皇帝〉に対して反旗を翻し、まもなく一年が経つ。だが皇帝が討伐軍を派遣してこないので、少々不安に思っていたところだ。それがようやく現れてくれて、私はホッとしている。皆もそうであろう、放っておかれてはかえって不気味ではないか?」
ははは、と家臣達が笑った。
「この丘を越えた先には煉北(れんほく)平原が広がっているのは皆も承知しているだろう。我々はそこで官軍を待ち受ける」
峡英の言葉に全員が頭をさげた。超水もそれにならう。
最初のコメントを投稿しよう!