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平原の向こうで、黒い塊が蠢いている。
じきに隊列が整えられ、銅鑼が叩かれるのだろう。その音は、煉州軍の陣営にまではっきりと届くはずだ。
すでに、煉州軍は迎撃の構えをとっている。整列した騎兵の前には超雪がいた。
槍を右手に持ち、落ち着いた表情で敵陣を見ている。だが、その口元が嬉しそうに歪んでいることには、誰もが気づいていた。
最前列の左端で、超水も呼吸を整える。白い息が立ちのぼり、ああ、今朝も冷え込んでいるのだな、と気づかされる。
寒さに気づけないほど、超水は前方に集中していたのだ。
……失敗は許されない。父上の威光を傷つけることは、許されない。
抑えようと思っても手が震える。
身も心も粉々に砕けそうになるほど鍛錬を積み重ねてきた。父親は父親と呼べるものではなく、常に師と弟子の関係であり続けた。
これからもそれは続いていく。
やがて、敵陣から銅鑼の音が響いた。始まるようだ。
横に広がった形で、官軍の騎兵が突撃を開始した。後から歩兵が猛然と続いている。
「さて、いよいよだな」
陣前で超雪が嬉しそうに零すのを、超水は黙って聞いた。
「よいか、我が軍が敵の戦意を削いでやるのだ。けして自分達だけでなんとかしようと色気づくな。全員が動きを守ってこそ、煉州軍はその強さを発揮できるのだ。肝に命じておけ」
おう、と先陣の兵士達が力強く返す。
超水は、右手に持った槍を強く握った。
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