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「みんなに配ったものが、今日の資料です」
A4二枚の白紙がそれだ。一枚目は、レジュメ、もう一枚目は資料となっている。
部外者からは、少ないと思われるかもしれないけれど、この同好会の目的に照らせば、これでいい。
「じゃあ、基本的なことを説明する前に、黙祷をしましょう」
「は? 黙祷?」
さっそくやる気のない部長が突っ込んできた。
「終戦記念日は、当時の天皇が戦争の終結を国民に伝えられた日なんです。そして、その時間は正午。そこから、毎年毎年8月15日のこの時間は、各地で黙祷してるんですよ。ほら、高校野球だってそうでしょ?」
「知らん。野球に興味ない」
ゲームばかりしてるからな。
「だから、まず黙祷しましょう」
「いやだ」
「何でですか」
いちいち突っかかってくんなや。
「祈る理由がわかんねー」
「……何を言い出すかと思えば。いいですか、戦争ですよ? たくさん人が亡くなったんです。その人たちの冥福を祈る意味の黙祷なんです」
私がそうまくし立てると、部長は呆れたようにため息をついた。なっ、ムカつく。
「大抵の人間はそんなこと思ってねえよ。ただ、決まりごとだから、空気読んでやってるだけだろ。野球部なんてみんなそうだろ」
「なんであなたはそう否定的なんですか。私だったらちゃんと心を込めて祈りますよ」
「あー勝手に祈ってろ。俺はイヤだって言ってるだけだから」
「それぐらいやってください!」
「い・や・だ。だいたいお前ここの趣旨忘れてんじゃないの? ここは記念日の正しい在り方なんてものを決めるとこじゃねー。オレらがリアルにどう思うかを話し合ってまとめてくとこだぞ」
……言葉に詰まってしまった。部長の言い分は間違ってない。間違ってないけど。
お前に言われるのがムカつく! いつもそれ言ってんの私だろ!
あー! 言い返せないなんて腹立たしい!!
あまりの腹立たしさに、頭をかきむしっている自分を想像してしまった。
「じゃあ、こうしよう」
唐突に話し始めたのは、終始ニコニコ笑顔を崩さない、副部長の米谷先輩だった。
この人は、いつもいいタイミングでフォローしてくれる。あぁ、なんであなたが部長じゃないんですか。
「黙祷したい人がするってことで」
「だから、さっきからそれ言ってんじゃん」
アンタが言うと反抗したくなるんだよ。
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