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「ええ、はい。そうですね」
「だったら」
部長が身を乗り出す。つられて私たち全員が部長を見つめる。
「コレを見ようぜ」
と言って出された数枚のDVDは、私が子どもの頃に見たような気がする映画のタイトルばかりだった。
いや、というより。
「何言ってんですか!?」
声が上擦ってしまった。
「コレを全部観ろと。ココで。今から。」
「そうだ」
そうだじゃねーよ。この暇人。
「私夕方には家に帰らないと……じゃなくて、なんでそんな流れになるんですか!? 議論はどうなったんですか!?」
「だから、これも議論の一環だ」
DVDを手に持ち、さも当然のように部長は言う。
「こんなの議論じゃないじゃないですか! 映画を観るっていうなら、映画研究部の活動でしょ!?」
実際にそういう部活はこの学校にあったりする。
「違うよ、なあ、亮」
浅はかな。
部長。米谷先輩が同意するわけないじゃないですか。
ところがどっこい。
「そうだね。少し外れるかもしれないけど、それも議論の材料になるならいいんじゃないかな? ねえ、先生」
おいおいおいおい! マジですか先輩!?
だって先輩がそんな聞き方したら。
「もちろん。私もそう思うわ」
ってなるに決まってるじゃないですか!
「只野さんはどう思う?」
心底困ったような表情でヒロを見つめる。
お願いヒロ、ヒロ! ヒロ様!
「……私も賛成……です」
ヒロは私の目を見ないようにしてそう答えた。
そのまさかの裏切りと、今日初めて発した言葉がまさかの裏切り発言だということにショックを受けて、私は声を上げることもできなかった。
「よし、じゃあ観るぞ!」
「あ、料理冷めちゃったから温めなおすね」
「……ケーキは?」
「ケーキはまだ早いじゃないかな?」
声が出ぬ間に着々と進む準備。
私が文句を言ってももう誰も止まらないだろう。
議論うんぬんはもうどうでもよかった。ただ――。
「私は早く帰りたいんだってば」
面白くもない本心からの叫びは、映画の音にかき消されてしまった。
窓際に移動したクリスマスツリーが規則正しく点灯し、小さなイルミネーションを形作っていた。
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