19人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、ああ見えて雄彦……部長もいいところあるんだよ」
「そうなんですか? どういうトコですか?」
米谷は考え込むようにうーんとうなった。
「言葉にするのは難しいけど……一つだけ」
「はい」
「実は根はマジメなんだ」
「……はい?」
どこをどう間違えれば真面目なんて言葉が出てくるのか。
「そうだね~村瀬くんは、すごい真面目な子だったよね~」
「え……あの……」
友希乃は話についていけずに何度か目を瞬かせる。
あの部長のどの思い出を振り返っても、そんな姿は浮かび上がってこなかった。
「一年のときはね」
「そうですね。一年までは」
そう言った二人の表情がほんの少しだけ曇ったのを友希乃は見逃さなかった。
声や表情を場に合ったものへと瞬時に変える。
「あの」
「うん?」
聞いていいのだろうか。聞いちゃダメだろうか。
心臓のどくんどくんという鼓動が聞こえた気がした。
いつもは他人の不幸話なんて、絶対に聞こうとしない。聞いちゃいけないこと。空気は壊すし、どう対処すればいいのかわからない。――というか気にならない。気になるとすれば、ヒロくらいなものだ。
部長なんて、いつもテキトーだしやる気ないし情けないし最低レベルでどうでもいい……はずなのに、どうしてか気になってしまう。
テレビの中では、クリスマスに似つかわしくない悪魔と天使の戦いが繰り広げられていた。
しかし、その音もその光景も今の友希乃には届くことはない。
友希乃は画面に向かってうなずくと、米谷へと向き直り、改めて口を開いた。
「その、村瀬部長は一年生のときに」
「雄彦はサッカー部だったんだよずっと」
米谷は柔らかく微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!