19人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕も一緒にやっていた時期があったんだけど、全然歯が立たなくてね。雄彦は巧すぎた」
昔を振り返るように、米谷の視線は天井へと上がった。
「それが災いしたのか、他の原因かはわからないけど、雄彦はここのサッカー部で――」
「サッカー部がどうかしたのか?」
友希乃はびっくりして肩を震わせた。
今の今まで眠っていたはずの部長が急に起き上がってきたからだ。
絶妙なタイミング過ぎて、狸寝入りしていたのではと危惧してしまう。
「で、サッカー部がなんだって?」
そういった村瀬の語気はいつもより荒い。
友希乃は笑顔をピッタリ貼り付けながらも、内心恐怖でいっぱいだった。
バレたらどうしよう、怒られたらどうしよう、嫌われたらどうしよう、という具合に。
「いや、少し昔話をね」
「昔話?」
「そ。ただの昔話」
「そうか。なら、そろそろ解散にしようぜ」
米谷が微笑み、つられるようにして村瀬も笑った。そして、場の空気は何事もなかったかのように元に戻っていた。
「さて、片付けんぞ」
「部長、その前にやることがあるんじゃなかったっけ?」
「ああ」
思い出したようにそううなずくと、村瀬はソファの横に置いた自分のカバンを開けた。
「軽部」
「は、はい」
まだ緊張感の残る友希乃は慌てて立ち上がった。
「手を出せ」
言われるままに両手を出すと、優しくその手に何かが置かれた。
村瀬の手がゆっくりと離れ、そこにあったのは、赤いチェック柄の包装紙にくるまれた四角い箱。
「え? あの、これは」
「見りゃわかるだろ、プレゼントだよ、クリスマスプレゼント」
村瀬はめんどくさそうに髪をかいた。いや――あるいは照れ隠しか。
友希乃は硬直したまま、じっと自分の手にある小さい箱を見つめていた。
胸のあたりが火照ったように熱く感じる。
「おい、勘違いすんなよ、みんなの分もあるんだからな」
「わ、分かってますよ! 部長のことだからなんか変な物入ってるんじゃないですか!? というか、部長が部員にプレゼントなんて当たり前じゃないですか!!」
当たり前じゃないとわかっていても、変なことを言っていると思っていても、なぜだか口から飛び出る言葉を止めることができなかった。
「ああ、もう! 先に片づけ始めますからね! 早く帰りたいんで!!」
友希乃は、そう言って一人後片付けを始めた。
最初のコメントを投稿しよう!