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帰り道。ふわりふわりと降る雪にちょっぴりロマンチックな気分に浸りながら、友希乃はゆっくりと歩みを進めていた。
校舎からはもう遠く離れ、特別な日を祝うカップルばかりが目につく駅前通り。
私もいつかあんなふうになれるのだろうか。誰ととは言わない。かといって誰とでもとはありえないけれど。いつかきっと。
――そこでなんで部長の顔が浮かぶかな。
「軽部さん♪」
後ろから突然声がかけられると同時に、抱きつかれた。驚いて振り向くと、明らかに酔っ払った袖口の頬の緩んだ顔がそこにあった。
「なっ、何してんですか先生!」
「抱きついてるのよ」
「抱きついてるじゃないですよ! ちょっと、すいません、離してください」
袖口はぱっと腕を離した。
「も~冗談が通じないんだから」
「冗談ってここは外ですよ! 部室じゃないんですから」
「はいはいはいはい。ところで、言っておきたいことがあるんだよね」
「言っておきたいことですか?」
急に袖口が真面目な顔になる。先生らしいいつもの顔だ。
「村瀬くんのこと、ありがとう」
「……え?」
何を言っているのかわからず首をひねる。
「あんなに楽しそうに笑えるようになったのは、きっとあなたのおかげだと思うから」
「えと、何を言って――」
「それじゃね。メリークリスマス」
そう言うとにっこりと可愛らしい笑みで、バイバイと手を振り、袖口は去っていった。
残された友希乃は、雪降る上空を見上げ、やや満足げに白い息を吐き出した。
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