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「確かに一理あるね」
米谷先輩が部長の意見に同意する。
部長の言うことは悪くない。私達にとっては、戦没者を悼み、平和を願う日だとしても他の国からしたらどうなのか。
私は資料に目を向ける。
「イギリスやアメリカ合衆国を初めとする連合国側では、9月2日を対日勝戦記念日として『V-Jデー』と呼んでいる。国際的には、9月2日を終戦の日とする国が多い」
「ほらな。勝った国からしたら、勝った記念の日なんだ」
「……そうですね。そうすると、外国の人は、どういうふうに捉えているんでしょうか?」
調べたのはこの辺りまでで、ここから先はわからない。
「勝ったから嬉しい日だろ」
「韓国とか解放された国は、日本と真逆だろうね」
「そうすると、戦争ってのは単純に悪いものとは言えなくなってくるんじゃね?」
「そうですね。見方によって意味が違ってくるんですから。得られるものと得られないもの両方出てきますし……」
あれ? まてよ。
「どっちも得たものと得ていないもの、というよりは失ったものがありますよね」
ということは。
「……戦争は……絶対……悪」
「じゃあ、どうして戦争なんてするんだろ?」
「勝てば、より大きなモンが手に入るからだろ」
「それに、軍需産業はガンガンもうかるしね」
私は途方もなく大きく膨らんだ議論に、ため息を吐いた。
「なんだか、すごく大きな理屈ですね。大き過ぎて、その理屈があっているかどうかわかりません」
「確かにな」
珍しく部長と意見が合う。
「大きすぎる話だ。たぶん、そんなのはよりすぐりのエリートが議論することなんだろ。オレらの扱うレベルじゃない」
部長の言葉に続く人はいなかった。
私もそう思う。戦争は悪だと分かり切っていても、戦争することで莫大な利益が手に入るから、戦争する、いや、しないなんてこと考えられない。
私には戦争は悪だから、絶対にしないんだっていうそれこそテレビのドキュメンタリーの方がしっくり来るから。
……しっくり来る。確かに。どうして、ドキュメンタリーはしっくり来て、戦争するかしないかはしっくり来ないんだ?
大き過ぎるから。大き過ぎるということはつまり。
『あっ』
4人同時に声が挙がった。
「戦争がどうのこうのって、私達に関係ないんだ」
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