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「ここだけのお話なんですが……」
と院長は言って僕の枕元まで来た。そして
「ほら、見て下さい。これ実は外国の医学辞典の内の一冊なんですよぉ。しっしっしっ」
と一番暴露してはいけないはずの僕に暴露して、押し殺しながらもしっかりと笑って見せた。してやったりという会心の笑顔だ。
やれやれ。このタヌキには死んでも適いそうにないな。
「もういい。これ以上あんたとしゃべってると具合が悪くなる。それにしても、酸素マスクを付けてこんなにしゃべれるとは自分でも驚いたよ。あんた、さすが院長になるだけあるね、名医かもな。さあ、神父役の定位置に着いて、後は黙って大人しくしててくれ。アーメン」
「ごーめん。なんちゃって。しっしっしっ」
僕は神父に化けたつもりらしいタヌキの駄洒落を無視した。しかし、タヌキはなぜか誇らしげな背中を見せながら定位置に帰っていった。やれやれ、このタヌキは長生きしそうだ。
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