はじまりの結婚式

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「君の親御さんが普通なんだよ。君を中心としたこの病院スタッフがおかしいんだ。だいたい院長にタヌキを選出して、そのタヌキの言うことを……」 「しっ」 と彼女は言って僕の唇に彼女の人差し指を立てた。そして、僕の耳元で囁くように語った。 「あのね、実は病院スタッフのほとんどが私達の結婚式を反対していたのよ。看護師と入院中の患者が結婚式を挙げるのは風紀を乱すタブーだって。ましてや院内で式を挙げるとは言語道断だって。そんな中で院長先生の鶴の一声があって、なんとか今日を迎えられたんだから。院長先生は私達の一番の理解者なのよ。神父役もご自分から名乗り出てやってくださっているの。“私が神父役をやれば院内で誰も文句は言えないだろうから”って。式が終わってからならいくらでもブラックジョークに付き合ってあげるから、今は黙ってて」 「式が終わる前に僕が死期を迎えきゃいいけれど」  彼女は僕をキッと睨んで立ち上がった。そして落ち着いた声でタヌキに向かって 「始めて下さい」 と言った。  恐い花嫁だ。やれやれ。
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