はじまりの結婚式

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「なあ。君が用意してくれた指輪、ひどくシンプルだな」 「太くてギラギラした金色のリングに大きなダイヤモンドがゴロッと付いてるのが良かったかしら」 と彼女は雑誌に目をやったまま応えた。 「そりゃ悪趣味だ。前にテレビで観たバブル時代の不動産王じゃあるまいし。ところでさぁ、日本対カメルーン戦、どうなると思う?」 「何それ?日本はカメルーンと雪合戦でもするの?この梅雨入り前の初夏に」 と彼女はやはり雑誌を見つめたまま真顔で僕に訊いてきた。僕はしばらく彼女の顔を見つめた。 「それ本気で訊いてる?それともジョーク?」 「素敵だと思わない?日本とカメルーンが6月に雪合戦してたら。たとえば、南アフリカなんかで」 「どこが素敵なんだよ。だいたい、そんなこと現実にはあり得ない」 「あり得ないことは信じられない?」 と彼女は雑誌から目を離し僕の目を見て訊いた。 「ああ」 と僕が応えると、彼女は雑誌を畳んで膝の上に乗せていたバッグの中に閉まって、僕を見た。
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