はじまりの結婚式

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「ねえ。今日の結婚式に来てくれた人達、みんな私達に“しあわせに”って言ってくれたじゃない?私、それを聞いてて思ったの」 と彼女は言って膝の上に乗せていたバッグから手帳とペンを取り出した。そして手帳に何かを書いた。 「これ見て。“しあわせに”ってこう書くでしょ」 彼女の手帳には 【幸せに】 と書いてあった。 「ああ」 「でもさっきはこのイメージが浮かんだの」 と言って彼女は手帳のページをめくった。そこには 【死合わせに】 と書いてあった。 「君もブラックジョークがうまくなったね」 「ジョークじゃないわ。本当にこの字が浮かんだの。そして気付いた。死と隣り合わせになってちゃんと死と向き合って、その時初めて幸せになるんだなって」  結婚式前の僕のブラックジョークを笑って聞いていることの多いどちらかといえば受け身的傾向の強かった彼女とはまるで別人の彼女の顔を僕はまじまじと見つめた。その顔は凛としていながらも、キャンドルの炎のようなポッとした暖かみがあるように僕は感じた。
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