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僕の病状を気にする病院スタッフだけでなく、個室の前の廊下を通り過ぎていく患者達も室内を必ず見ていく。そりゃそうだ。いつもは“開かずの個室”のここのドアが珍しく開いているのだから見たくもなるだろう。そして実際見てみたら、幼稚園のクリスマス会でもやる教室のようなデコラティブな壁、直角に曲がった細長い深紅の絨毯が敷かれた床、点滴やら酸素ボンベやら医療的電気機器やらに囲まれたベッド。その上に白いタキシード姿の重篤患者が仰向けに横たわっているんだ。自分でも分かっているよ。僕が異常な光景の一部になっていることくらい。
おお、少年がドアにしがみついて不思議そうな表情を浮かべて無垢な瞳をもってまじまじと僕を見ている。そりゃそうだ。少年よ、君は素直な子だ。君は間違っていない。君の気持ちを察するよ。
寝たきりの重篤患者として入院した時点で、院内では一人になんてなれやしないのだ。僕が甘かったんだよ。
僕は大きなため息をついた。
「浜田さん。花嫁の準備が整いました。そろそろ宜しいですか?」
と制服姿の作業療法師の女性が純朴少年越しに訊いてきた。
「ああ。とっとと始めてくれ」
と僕はいつものようにつっけんどんに言った。
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