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初めのうちこそ
喚き、怒り、抵抗し、
ありったけの軽蔑を込めて鬼を憎んだ。
憎しみを言葉にしてぶつけ、
触れようとする手を払いのけ
嫌悪を露わにして拒んだ。
だが元親が下手に出て
元就を出来るだけ穏便な方法で懐柔しようとしたのは
ほんの数日の間だけ。
幾日か経ったある日。
鬼は、鬼と異名をとる所以を明らかにしてみせた。
それからもういったいどのくらいのときが経ったのか。
今の元就には
鬼に抱かれているときと
そうでない独りのときという
二つの時間帯しか存在しない。
自分をここに閉じ込めた張本人に、
元就は気だるく身を起こし
何も言うことなく縋り付いた。
元親はそんな元就の頭を愛おしそうに撫でると
足錠の鍵を外す。
それは二人の間の大切な儀式だが
自由になったところで
元就は逃げようとは思わない。
元親は丸一日と空けずにここへやってくる。
そのたびごとに荒々しく抱かれているせいで
立ち上がることすらままならないのだから
逃げるなど到底不可能だ。
鎖を外すと、自由になった元就の右足を
鬼の手がするすると這った。
大きな手はそのまま着物の裾を割り、
容赦なく中へと侵入してくる。
びくり、と元就が恐怖ではなく歓喜で体を震わせるのを
確認すると
元親は満足そうに微笑んだ。
-まだ大丈夫。
元就はその微笑みを見て胸を撫で下ろす。
どうやら今日の鬼は機嫌がいいらしい。
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