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「末(スエ)姫…」
ぽつりと誰かの名を呼ぶ声がして、人影が消えた。
「きゃっ…」
目の前に人影が現われて驚きの短い悲鳴をあげてしまった。
夜中ということを思い出し、慌てて口元を押さえた。
視線をあげれば、じっと見つめる双眸がある。
ゆっくりと大きな手が伸びてきて、口元を押さえていた手を優しく掴み離した。
(そうね…今更押さえても遅いわ…)
頬が赤くなるのを感じ、私は少し顔を伏せた。
「えっ…」
不意に手の甲に温かい物が触れて、顔をあげた。
「!」
私の手の甲に触れていたのは、その方の唇。
「な…な…」
言葉にならない声をあげる。
私の様子にその方がふっと笑った気がした。
「あ…」
手を離され、背中を向けられる。
手を離されたことが寂しい。
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