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「待って…!」
掴んだ腕が生暖かく湿っている。
微かな血の臭いに気付く。
「怪我を…?手当て…」
「俺じゃない」
『みゃー…』
「?」
聞こえた弱々しい鳴き声に首を傾げれば、その方は短いため息をひとつつき、懐から何かを取り出した。
「子猫…」
鳥か獣に襲われたのだろう、小さな体に痛々しい傷が出来ている。
庭で佇んでいたのはこの子を見つけたからなのだろう。
「大丈夫だ。死なせない」
私を安心させるようにその方はぽつりと言った。
子猫を抱いている手とは、反対の手が伸びてくる。
しかし、私の頭を撫でようとしたであろう手は止まり、触れずに離れていった。
「髪が汚れてしまうな」
その方は離した手を見つめ、ふっと自嘲の笑みを漏らす。
「俺なんかが触れたら…」
何故だか、その言葉が胸を苦しくさせた。
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