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香を焚く。
仄かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「咲雪(サユキ)様」
唯一の侍女が私に声をかけた。
「…会いたくありません。断りなさい」
「それが…あの…」
躊躇う声に私は視線を向けた。
侍女の後ろ隣りにはきちんと小袖を着た青年が控えていた。
(本人を来させるなんて…)
驚きと呆れと戸惑いが入り交じる。
しかし、冷静に侍女に向かって言う。
「下がりなさい」
私の声に侍女は一礼すると場を離れる。
侍女の足音が聞こえなくなってから、私は口を開いた。
「どうぞ、中へ」
青年が部屋へと足を踏み入れ、近過ぎず遠過ぎない間合で青年は腰を下ろした。
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