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離れていく温もり。
閉じていた目を開ければ、青年が立ち上がったところだった。
そのまま背を向け出て行こうとする青年に、私は慌てて声をかける。
「あっ!匂い袋」
「替えておいてくれ」
青年が足を止めた。
「代わりにそなたのを借りてく」
顔だけ振り返り答えた青年の手には桃色の匂い袋が握られていた。
それは、自分の首から下げて懐にいれてあった匂い袋だった。
先程触れたのは匂い袋を取るためだったのだろう。
かぁっと頬が熱くなのを感じて、顔をふせた。
ふせたのはいいが、青年の反応が気になって視線だけ上げた。
「!」
青年の優しい双眸とかち合う。
ふっと笑った青年は匂い袋を首にかけ、
「またな、"咲雪"」
と言葉を残し去って行った。
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