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「はい、そこまで。」
残る一つの影は楼の縁側に腰掛けて観覧している、優雅な佇まいに何処かしら母性を感じる桃髪の其の女性。
この白玉楼の主、西行寺幽々子は何時も通りの朗らかな笑顔で真剣勝負の幕を降ろした。
互いの決闘者の首筋には刃が一寸の距離に置かれていた。
「引き分け……ですね。」
少女が刀が降ろす。
従えた一つの霊魂と短く切り揃えられた銀髪を靡かせる、まだ幼い風貌ながらも卓越した剣術を操る彼女はこの広大な庭園の庭師を務める従者、魂魄妖夢。
対する大男も得物である長巻を離し、刃を担いだ。
彼もまた妖夢と同じく霊魂を連れているがその巨躯に見合うずんぐりとした大きさで、一筋の大傷を走らせた顔は見たものを圧倒するであろう。
だが勝負が終わった今、その眼は穏やかな光が宿っていた。
「……漸く追い付けた、か。」
名を良泉道仁己と言う、鬼である。
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