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真澄は浮気をしている。
「ただいま…」
「おかえり。遅かったね」
「ああ、会社の連中と飲み会があってさ」
「あれ、一昨日も飲みじゃなかった?」
「…別な科に引っ張られて」
「そっか」
真澄は、浮気をしている。
時刻は深夜一時半。
付けた覚えのない首の跡。
不自然な皺の残るワイシャツ。
まどろむ瞳。
「風呂、沸かしてないから」
「ああ、うん…シャワーでいい」
いつもの香水の香りがしない。
代りに買っていないボディーソープの匂い。
無くしたらしいピアスの片方。
知らない煙草の匂いを纏い、おもむろに真澄が振り返る。
「裕次郎は?」
「俺は入ったから」
「そうか」
その残り香が湯に溶ける事を想像すると、どうしようもない気持ちになるからこんな日は湯船は空の侭。
「じゃあ…」
「うん」
脱衣所はない。
脱ぎ捨てた服は纏められ、痕跡を消す様に素早く洗濯機の中へ。
いつもは脱ぎっ放しの癖に。
間も無くお湯のはぜる音。
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