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布を引きずるような音が、夜の街を徘徊するように聞こえてくる。 ズルズルと、ズルズルと休むことなくし続けるそれは、眠りについた街を歩き回り、まるで何かを探しているように彷徨っていた。 やがて、その音の主はある建物の前に来るとピタリと立ち止まる。 そこは、何の変哲もないごく一般的な一軒の家だった。木製の扉に狼の紋章が描かれている事以外には特徴はない。 それは家を暫く見上げていたが、やがて、ゆっくりと扉に近づいていくと、何の躊躇も無くそれを押し開けた。 何の錠も掛けられていなかったらしく、簡単に開いた扉をくぐって中に入ると、リビングだろう、質素な机と椅子が置いてあり、その上には何故か出来たての料理が湯気を上げていた。 「お帰りなさい」 リビングの奥から、不意に少女の声が聞こえてきた。その後に続いて、暗くなっているところから、幼い少女が無表情に出てきた。 その少女は、長い黒髪と吸い込まれそうな瞳をしていて、首には銀の鈴をつけている、可愛らしい少女だった。何処か人とは思えないような、独特の雰囲気を醸し出していた。 それは少女を認識すると、ようやくその身体を被うように纏っていた布を脱ぎ捨てた。 それは、銀髪金眼の男だった。 整いすぎている顔立ちに、何故か左目には眼帯。高い身長の割りには若干細い体と、腰には刀と銃、背には大剣と戟、恐らく服の下にも隠し持っているだろう、異常なまでの大量の武器を何の苦もなく持ち歩いている。その状態で顔色一つ変えずに街を歩き回れるこの男、凄まじい人物である。 男は、少女と同じく無表情に頷いて、床に武器を落とすようにしながら歩いて椅子に腰掛け、食事を始めた。その正面に少女も腰掛け、その光景を眺める。 「…………おいしい?」 少女の問いかけに、無言で頷き、黙々と食べる。 その後は二人とも、話そうとはしない。ただ静かに、時が流れていく。 男が食事を終えると、少女がまた口を開いた。 「………明日は、ロウガはどうするの?」 どうやら男の名はロウガと言うらしい。 ロウガはピタリと動きを止めて、少女をじっと見つめていたが、やがてようやく口が動いた。 「……ウル」 そして少女───ウルの返答を待つように黙り込んだ。 「………僕は、ギルドに行くよ」 「狩り」 ウルの答えを聞いた直後、ロウガはそう言った。 ウルはその単語を聞いて、少しだけ笑った。
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