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「何するんですか!?」
いけない……今の声は少し女らし過ぎただろうか。
そう冷静に考えられた時にはもう遅く、私は思い切り男性の手を叩き、振り払っていた。
だって、気持ち悪かったんだもの──
「この坊主が……あまり調子に乗るでは無い……!!」
──しょうがない!
相手の鯉口が切られるのとほぼ同時に、懐の刀に手をかけた。
出来れば人を斬りたくなどないけれど、私には私の信念がある。
「刀を抜くからには覚悟が出来ているんだろうな小僧!!」
「先に抜いたのはそちらです……!」
私は、近藤先生に会うんだから……一刻も早く、京へ行かなければいけないんだから……!!
「邪魔しないで!」
その一言を皮切りに、刀を抜こうと腕に力を込めたその時、
「こんな所で遊んでるいうが事は、斬られても問題ないちゅう事じゃのう?」
聞き覚えの無い、聞いたことも無い言葉が耳に入り、瞬間、視界が紅に染まった。
「……な……?」
初めは何が起きたのか理解が出来なかった。
目の前の男性は目を見開き、私の喉元を指していた刀が大きな音を起てて、地面へ落ちた。
そして太くも脆そうなその首からは、鮮血が吹きこぼれ、頭だけがゆっくりとけれど確実に首から擦れ、やがて刀よりも大きな音と衝撃をもって地へ転がり落ちた。
それから体は、ゆらゆらと倒れるのを拒みつつも、頭無しではその存在意義を見出だせないとでも言うかの様に時間もかからず地へ伏して行った。
きっとこの男はさほど苦しむ事なく逝けただろう……それを確信出来る程に、その行為が行われたのは一瞬の出来事だった。
そして、首から離れた所に転がる首も、斬られた瞬間の驚き顔だった。
「こんな……」
鮮やか過ぎる殺害。 それは単純な恐怖と、多大な好奇心を生んだ。
私は敢えて好奇心に逆らわず、男性の遺体から顔を上げて、剣閃の鳴り始めた方へ目をやった。
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